新しいタイプの商標の保護制度③—色商標

本記事は前回の記事『新しいタイプの商標の保護制度②—ホログラム商標』の続きになります。前回の記事では、「新しいタイプの商標の保護制度」の5タイプのうち、タイプ②「ホログラム商標」についてご紹介しました。今回は、タイプ③「色商標」をご紹介したいと思います。


新しいタイプの商標の出願・登録状況:

更新日2021年9月1日

タイプ③:色商標

色商標とは、その名の通り色彩のみからなる商標です。単色の色彩や複数の色彩を組み合わせて構成される商標や、商品等の特定の位置に色彩を付すものを指します。

過去の記事でも触れておりますが、商標の登録要件として自分の商品・サービスと他人の商品・サービスとを区別できる「識別力」を有することが商標法にて規定されています。そうなると色彩だけを構成要素とする商標だと、どう考えても識別力が低いと思いますよね。
実際、色商標が識別力を欠くという理由もあって特許庁に審査・認可されるハードルは非常に高く、登録のためには識別力があることを立証するのがポイントとなります。

例えば色商標の出願段階では願書に識別力に関する説明は要求されていませんが、出願後ほぼ確実に識別力に関する拒絶理由通知が出されます。
これに反論するために発売開始からの経緯、市場での占有率(シェア)、広告量、アンケート内容等を説明し、その内容を裏付ける業界統計、パンフレットやホームページの写し、広告媒体の写し、アンケート結果等様々な書類を提出することが必須とされます。

簡潔に言えば、まず出願人が色商標を出願し、そして使用に基づく識別力に関する証拠を提出し、さらに審査官から求められた内容を追加提出し、最後に識別力の証明ができない商品等を削除するまでが一般的な色商標を登録する流れになります。
色商標を出願する前より、登録まで多くの労力が必要なことを覚悟した方がいいでしょう。

上記の手間も影響しているのか、日本で特許庁に出願が行われて新商標として認定される割合は、5タイプ全体で約40%である一方、色商標の登録成功率が最も低く、2021年9月の時点までで出願件数が552件なのに対して、無事に登録できた色商標は僅か8件しかなく、登録成功率は僅か約1.5%しかありません。


では具体的に色商標はどのようなものかについて、実際の例を見てみましょう。

商標登録5930334号


右の図を見て、パッとすぐに何か気が付いた方も多いでしょう。
こちらの色商標は株式会社トンボ鉛筆が所有しており、代表商品であるMONO消しゴム等に使用されています。

MONO消しゴムは1969年からトンボ鉛筆より発売されて以来、よく消える消しゴムとして現在まで愛されてきた人気のある商品です。実際商品のシンボルである横方向の帯状の青色、白色、黒色の三色を組み合わせた色彩を見るだけで、それが何を表し何に使用されているかまで多くの方に認知されています。

しかしながら、実際にトンボ鉛筆がこの三色の図を色商標として商標出願しても、スムーズに登録出来たわけではありませんでした。
始めにトンボ鉛筆が広く「文房具類」を指定商品として2015年に商標出願しましたが、特許庁から拒絶理由通知書が出されました。
その拒絶理由は「商品や商品の包装に使用される色彩は,多くの場合,商品の出所を表示し,自他商品を識別するための標識として認識し得ず,したがって,出願商標は単に商品の特徴を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものとして、商標法第3条第1項第3号に該当するとされた。」という、使用による識別力が文房具全般には認められないことを通知されました。

出典:https://www.tombow.com/products/mono/

それに対して、トンボ鉛筆は、①商標の使用地域が全国的であることを示す資料、②商品の出荷数量・出荷額等を示す資料、③出願人による商標についての宣伝広告が大規模で継続的なものであることを示す資料、④色彩の組合せのみで独立して自他商品識別標識として機能していることがわかる資料(例:色彩の組合せのみで使用している事実が分かる資料、需要者を対象とした出願商標の認識度調査の結果報告書など)の上記①から④までで計26件の追加資料を特許庁に提出しました。

2回の意見書・手続補正書と多数の追加資料を提出し、ようやく拒絶理由を解消できました。
結果、指定商品が「消しゴム」のみに減縮補正され、出願から2年後の2017年にようやく登録できました。 それでも色商標の中では、こちらの審査期間は2021年9月までで最短となっています。

色商標の商標出願方法:

色商標を出願する時、実物を特許庁に提示するのができないため、願書に図面を添付することに加えて、色商標を構成する色彩を特定するための色彩名、三原色(RGB)の配合率、色見本帳の番号、色彩の組み合わせ方(色彩を組合せた場合の各色の配置や割合等)等について、具体的かつ明確な説明を記載するのが必要となります。


また、色彩商標の出願時の注意点について、いくつかの注意点が挙げられます。

①使用に基づく識別力を証明できない商品・役務(サービス)は記載しないこと

→識別力がないという理由で拒絶理由通知が出された場合、使用による識別力を証明する必要があります。

②出願商標の色彩と「商標の詳細な説明」の欄に記載された色彩とが一致することを確認すること

→一致しない場合は拒絶理由通知が出されます

③色彩の特定にあたり異なる色彩規格を併記しないこと

→一致しない場合は拒絶理由通知が出されます

④出願商標中に意図しない色彩の混じりこみがないかを確認すること

→無用な範囲まで言及することを避けられます

色商標の審査基準:

色商標の登録の可否に守らないといけない規則はいくつがあります。

A)商品や役務(サービス)に慣用されている商標は登録できない

例:「赤色及び白色の組合せ」(婚礼の執行);「黒色及び白色の組合せ」(葬儀の執行)


B)商品が通常有する色彩

1:商品の性質上、自然発生的な色彩 「黒色」(商品「木炭」)

2:商品の機能を確保するために通常使用される又は不可欠な色彩  「黒色」(商品「自動車用タイヤ」)

3:その市場において商品の魅力の向上に通常使用される色彩  「シルバー」(商品「携帯電話機」)

4:その市場において商品に通常使用されてはいないが、使用され得る色彩は登録できない 「黄色」(商品「冷蔵庫」)

5:色模様や背景色として使用され得る色彩 →「縦のストライプからなる黄色、緑色、赤色」 (商品「コップ」)


C)色彩のみからなる商標のうち、色彩を組み合わせてなるものが国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一 又は類似の標章である場合は登録できない

「緑・白・赤の組合せ」(イタリアの国旗と類似)


上記の規則全てを守ったとしても、必ずしも登録できるではありません。他の商標法と同じように他人の先行する登録商標と類似すると、特許庁から拒絶理由通知が出されます。原則として、他人の先行商標と似ているかどうかについての審査基準は、当該色彩が有する色相(色合い)、彩度(色の鮮やかさ)、明度(色の明るさ)、色彩の組合せにより構成される全体の外観を総合して、商標全体として審査されます。

例:原則として、類似しない場合

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: スクリーンショット-2021-08-31-155508-1.png
画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: スクリーンショット-2021-08-31-155152-1.png
出典:1特許庁「新しいタイプの商標に関する審査基準の概要」

「単色の商標」と「文字と色彩の結合商標」とは、原則として、類似しないものとします。また、文字商標との類否判断においては称呼及び観念において同一又は類似であるとしても、色商標は要部として色彩の外観が重要な判断要素になるため、原則として、類似しないものとします。


例:原則として、類似する場合

出典:1特許庁「新しいタイプの商標に関する審査基準の概要」

「図形と色彩の結合商標」と「色彩を組み合わせてなる登録商標」との類否については、色彩の配置や割合等が同一又は類似であれば、原則として、類似するものとします。

参考文献:

1特許庁「新しいタイプの商標に関する審査基準の概要」

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/newtype/document/new_shouhyou_video/01.pdf

田口健児,岡田全啓,須永浩子,渥美元幸,駒場大視『「動き商標」「色彩のみからなる商標」の審査動向』パテント73巻2号52頁~66頁(2020年)

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3492

SNSでシェア:

情報提供源

本ページの情報はAIとRPAを駆使したクラウドベースの
商標調査・出願・登録システム「すまるか」により生成されました。
商標が取れそうかどうかを確認する先行商標調査は無料で、
原則1週間以内に調査報告書をお送りします。アパレル、飲食、
サプリ、物販、EC、美容、情報発信など、
様々な商品やサービスを提供する中小企業、ベンチャー、
スタートアップ、個人事業主、等の皆様の
商標取得をサポートします。