新しいタイプの商標の保護制度④—音商標

本記事は前回の記事『新しいタイプの商標の保護制度③—色商標』の続きです。前回の記事では、「新しいタイプの商標の保護制度」の5つタイプのうち、タイプ③「色商標」についてご紹介しました。本記事は、タイプ④「音」商標をご紹介したいと思います。

新しいタイプの商標の出願・登録状況:

更新日2021年9月1日


タイプ④:音商標

音商標とは、聴覚によって認識される商標を指し、歌、音声、自然音等からなる商標を指します。具体的に言うと、①言語と音楽で組み合わせた音商標②音楽のみからなる音商標の2つのタイプに分けられます。

について、こちらは歌詞のフレーズ自体に識別力があれば、スムーズに登録できることがほとんどです。例えば、電子マネー「WAON(ワオン)」の決済音は、犬の鳴き声を音符にして、フレーズ「わおん」に合わせて一つの音商標として商標登録がなされました。

一方については、原則として色商標のように使用による識別力があることを出願人から立証できないと登録できないため、登録のハードルが高くなります。例えば、世界的に有名なゲーム「スーパーマリオ」でマリオがコインを取る時の「チャリーン」という効果音が、2016年に任天堂株式会社により音商標で出願され、そこから任天堂が登録に至るために使用による識別力があるのを立証するために様々な証拠、書類を特許庁に提出しました。
それでも特許庁審査官は「2秒程度の短い音であることからすると、単にゲーム内の効果音として認識されるというべき」と述べ、使用による識別力についても「(CMでの使用は)単に映像の開始又は終了を需要者に注意喚起したりする音、または単なる映像の効果音として認識されやすいというべき」と判断しました。
結局、上記音商標は2年後の2018年に出願人の任天堂が出願を取り下げてしまいました。


登録5984020号(権利者:イオン株式会社)

  


商願2016-014590(出願者:任天堂株式会社)


とはいえ、現在日本において商標権を取得できる商標の種類のうち、音商標は唯一の視覚以外に認識される商標であるため、新しいタイプの商標の中でも最も特殊な商標と言えるでしょう。そのおかげかもしれませんが、多くの企業も音商標の出願に積極的な姿勢を取っており、2021年9月時点で出願件数は712件もあり、新しいタイプの商標の中では最も多いです。


音商標の出願方法:

音商標を出願する場合は他の新商標の出願方法と異なり、商標出願に際し音の入った媒体を提出する必要があります。媒体については以下の4つの規定が設けられています。

  • 使用できる媒体は「CD-R」又は「DVD-R
  • 記録するファイルはMP3
  • ファイルのサイズは5MB以下
  • 一つの媒体には、一出願分の一つのファイルのみを記録


また、物件を提出するに加え、従来通り願書の提出も必要です。下記はその例になります。

出典:特許庁「新しいタイプの商標に関する審査基準の概要」


 ご覧の通り、【商標登録を受けようとする商標】のところに音商標を記載する際に、出願人は自分の都合に合わせて五線譜若しくは文字で商標を記載できます。

 五線譜による記載する場合、① 音符、② 音部記号(ト音記号等)、③ テンポ(メトロノーム記号や速度標語)、④拍子記号(4分の4拍子等)、⑤言語的要素(歌詞等が含まれるとき)、以上5点が正しく記載しているかどうかを確認するのがポイントとなります。また、文字による記載する場合、①音の種類、つまり擬音語又は擬態語と組み合わせる等の方法により特定して記載すること(例えば、「ニャー」という猫の鳴き声、「パンパン」と手をたたく音、「ピューピュー」と風の吹く音、「ゴーゴー」と風の吹く音、「カチャカチャ」と機械が動く音、「ウィンウィン」と機械が動く音。)と②その他音を特定するために必要な要素音の長さ(時間)、音の回数、音の順番、音の変化等を記載すること(音の変化とは、音量の変化、音声の強弱、音のテンポの変化等のことを言います。)、以上2点が正しく記載しているかどうかを確認するのがポイントです。

出典:特許庁「新しいタイプの商標に関する審査基準の概要」

 今までの音商標の出願状況によると、【商標登録を受けようとする商標】のところに記載された五線譜や文字が、提出された音声ファイルと不一致という理由で、音商標を特定できないとして拒絶理由が通知されるケースが多いです。そのため、音商標を成功に登録できるには、願書を提出する前に予め記載された商標のリズム、テンポ等が本当に音声ファイルと一致するかどうかをチェックした方がいいでしょう。特に、このような理由で拒絶される場合、補正書を提出することによって解除できるものの、【商標登録を受けようとする商標】のところに記載された五線譜若しくは文字に補正するのが不可能であり、拒絶理由を解除するには音声ファイルに補正するという方法しかありません。従って、【商標登録を受けようとする商標】のところに記載された五線譜若しくは文字が必ず正しく記入するのがポイントであり、音声ファイルも五線譜若しくは文字で記載された通りに作成したほうがいいでしょう。

音商標の審査基準:

 音商標の登録には守らないといけない規則がいくつがあります。

(1)商品が通常発する音

→商品から自然発生する音 (例)商品「炭酸飲料」について、「『シュワシュワ』という泡のはじける音」

→商品の機能を確保するために通常使用される又は不可欠な音 (例)商品「目覚まし時計」について、「『ピピピ』というアラーム音」

(2)役務の提供にあたり通常発する音

→役務の性質上、自然発生する音 (例)役務「焼き肉の提供」について、「『ジュー』という肉が焼ける音」

→役務の提供にあたり通常使用される又は不可欠な音 (例)役務「ボクシングの興行の開催」について、「『カーン』というゴングを鳴らす音」

(3)自然音を認識させる音

→自然音には、風の吹く音や雷の鳴る音のような自然界に存在する音のみならず、それに似せた音、人工的であっても自然界に存在するように似せた音も含まれる。

(4)需要者にクラシック音楽、歌謡曲、オリジナル曲等の楽曲としてのみ認識される音

 (例)CM等の広告において、BGMとして流されるような楽曲

(5)広告等において、需要者の注意を喚起したり、印象付けたり、効果音として使用される音

 (例)商品「焼肉のたれ」の広告における「ビールを注ぐ『コポコポ』という効果音」

 (例)テレビCMの最後に流れる「『ポーン』という需要者の注意を喚起する音」

(6) 役務の提供の用に供する物が発する音

 (例)役務「車両による輸送」について、「車両の発するエンジン音」

 しかし、上記の規則全てを守って出願しても、必ずしも登録できるとは言えません。もし出願された商標は他人の先行商標と類似すると、特許庁から「拒絶理由通知」が出されます。先程も言及しましたが、音商標は①言語と音楽で組み合わせた音商標、②音楽のみからなる音商標、2タイプに分けられます。タイプ①のような言語的要素を含む音商標と文字商標との類否については、商標法4条1項11号音商標の類否の判断によると、「音商標の類否の判断は、音商標を構成する音の要素及び言語的要素(歌詞等)を総合して、商標全体として考察しなければならない。なお、音の要素とは、音楽的要素(メロディー、ハーモニー、リズム又はテンポ、音色等)及び自然音等をいう。」と規定されました。しかしながら、特許庁の現在の審査基準では、音の要素には原則として識別力を認めていないため、言語的要素が要部として抽出される場合には類否の判断を行います。つまり、実際には音の要素の識別力にかかわらず,言語的要素のみ識別力があるかどうかを判断します。

例)言語的要素が非類似、音楽的要素が同一の時、原則として類似しない場合   例)原則として、類似する場合

 また、先ほども述べたように、特許庁の現在の審査基準では、音の要素には原則として識別力を認めていません。タイプ②音楽のみからなる音商標については、色商標の商標と同じく、必ず特許庁から需要者に自他商品・役務の識別標識として認識されない商標として拒絶理由が通知されます。そのため、出願人がその拒絶理由を解除するに使用による識別力があることを証明し、審査官が認められた上で登録に至ります。とは言うものの、使用による識別力があることを認められるまで、かなり手間と時間がかかるため、心の準備が必要です。

参考文献:

1特許庁「新しいタイプの商標に関する審査基準の概要」

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/newtype/document/new_shouhyou_video/01.pdf

藤森 裕司,山下 彰子,熊井 寛,石田 知里,山本 直樹「音商標」の審査動向」パテント73巻2号82頁~97頁(2020年)

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3494

任天堂がマリオコインの音商標権取得を断念 Yahoo Japanニュース 2018/8/2

(https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20180820-00093779),参照2021/09/14

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