新しいタイプの商標の保護制度①—動き商標

「商標はどのようなものですか?」という質問に対して、文字で構成された店名や図形で構成されたロゴマークを思い浮かべるのがほとんどでしょう。 しかし、2015年から特許庁が新しいタイプの商標の保護制度を導入しました。
その「新しいタイプの商標」とは、「動き商標」、「ホログラム商標」、「色彩のみからなる商標」、「音商標」、「位置商標」の5タイプの商標を指します。この新制度によって文字、図形、立体からなるものに限らず、動画、メロディーでも商標登録をすることが可能となりました。
今回はこの新しいタイプの商標の中から、動き商標をご紹介したいと思います。


新しいタイプの商標の出願・登録状況:

(更新日2021年9月1日)

タイプ①:動き商標:

動き商標とは、文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標です。一般的にはテレビのCMやプロモーション動画に使用されます。
現在では、映像などの最後に社名・ロゴマークを表示する事はもはや当たり前のこととなっていますが、社名・ロゴマークが単純にパッと出てくることより、何か特徴的な動きを加えた方が視聴者により記憶されるので、現在では映像などに登場する社名・ロゴマークが印象的な動き付きで表示されることがほとんどです。

例えば、有名な映画製作会社である東宝株式会社のロゴを皆さん一度は見たことがあるかと思います。ちょっと思い浮かべてみましょう。
おそらく単純な円の中に「東宝」と表されたロゴに加えて、同時に放射状に輝く光の背景が思い浮かばれたかと思います。
その理由として、放射状に輝く光の背景が既に「東宝株式会社」の一つの目印になったからです。ここでもし「東宝」が文字・図形商標でのみ商標登録し、動き商標で出願しない場合、他人がロゴマークだけを替えて放射状に輝く光の背景を無断で使用しても商標権侵害にならない可能性が高いです。
よって動き商標まで権利を取得することにより、自社と類似的な宣伝動画から権利を保護し、より全面的に自社の商標を独占できるようになります。


動き商標の商標出願方法:

動き商標を出願する際には映像を特許庁に提示する事が出来ないため、願書に一枚以上の図面で動きの順番を表示する、若しくは破線で動きの軌跡を具体に表示することに加えて、商標全体の所要時間等について明確な記載が必要となります。


図面で動きの順番を表示する例:

魚の群れが5秒で図1から図う8にかけて、左方向へ概ね水平に移動する様子を表しています。(商標登録5805758号 権利者:株式会社三洋物産)


破線で動きの軌跡を表示する例:

2本の矢印が環状に繋がった状態で破線の軌道に沿って約4秒間で動いています。
(商標登録5842088号 権利者:アイディエーション・ジャパン株式会社)

上記の様に商標の動きが簡単であれば問題はありませんが、一方で動きがあまりにも複雑過ぎる商標の時には、文章で明確に説明できない場合があります。それゆえ商標見本(図面)に表された商標及びその変化の状態と、商標の詳細な説明の記載により表された商標、及びその変化の状態とが一致していないことで登録を拒絶されることがあります。
このような理由もあって、登録される動き商標はそこまで時間が長くない簡単な動きで構成されるものがほとんどです。

動き商標の審査基準:

原則として動き商標の登録の可否は、伝統的な商標(文字商標等)と同様に「商標審査基準」に基づいて審査されます。その理由として基本的には動き商標の動きそのものの識別力の有無が、商標全体の識別力の判断に影響を及ぼさないからです。よって他人の先行する商標と類似するかどうかに判断する対象は、動きを構成する文字と図形になります。


例:原則として、類似しない場合


動きの軌跡が同一ではありますが、審査対象は図形部分の地球と紅葉であるため、両図形の外観(見た目)、称呼(呼び方)、観念(意味合い)においていずれも異なりますので、両者は類似商標ではないと判断されます。

例:原則として、類似する場合


上記のような動き商標と一般的な文字・図形商標とを比較する際には、動きの軌跡が審査対象外である事、一般的な文字と図形商標が動きの軌跡がない事、動き商標との動きの軌跡が異なる事など様々な比較がされますが、審査部分である文字「SUN」・図形「緑色の自動車」の部分は文字商標「SUN」と図形商標「緑色の自動車」とを比較すると、外観(見た目)、称呼(呼び方)、観念(意味合い)においていずれも同一でありますので、両者は類似商標であると判断されます。







参考文献

1特許庁「新しいタイプの商標に関する審査基準の概要」

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/newtype/document/new_shouhyou_video/01.pdf

特許庁「動き商標に関する審査基準について(案)」(平成26年9月)

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_wg/document/06-shiryou/03.pdf

田口健児,岡田全啓,須永浩子,渥美元幸,駒場大視『「動き商標」「色彩のみからなる商標」の審査動向』パテント73巻2号52頁~66頁(2020年)

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3492

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