商標とAI

誰でも一度は耳にしたことあるAI(人工知能)が、世界各国でサービスや仕事に活用されることが話題になることが増えてきました。我々すまるかの商標調査も調査報告書を作成する際にAIを使用して類似商標を検索します。AIのおかげで、従来の人手による調査及び報告書の作成期間が短くなり、さらに高精度な調査報告書を皆様に送ることができます。しかし、可能性を秘めて進化し続けるAIが改良を続けると、いつか弁理士の業務を代替する可能性はあるでしょうか。実は、2019年に、「AI vs 弁理士」という、商標調査の分野におけるAIと弁理士が対決するイベントが開催されました。本記事は、このイベントを紹介しながら、商標分野においてAIはどのような位置付けになるかについて検討します。

「AI vs 弁理士」イベント:

「AI vs 弁理士」イベントは、2019年10月10日に東京カルチャーカルチャー(渋谷)にて開催され、100人を超える観客が参加しました。このイベントでは、AIと3名の弁理士が商標調査における作業の正確性を競い、競う項目は「図形商標対決」「類否判断対決」「識別力対決」3つの項目です。総合結果としては、20問中13問正解させたAIに対し、14問で正解した弁理士が僅差で勝利しました。

一つ目の項目「画像商標対決」では、制限時間内に実際に出願された1つの図形商標に対し、その図形商標と類似する商標を見つけてくることです。AI側はディープラーニングを活用し、類似の画像を多く選別しましたが、その候補の中に正解が含まれていたものの、最も類似する画像を選び出すことができず、正確に類似する商標を選定することができた弁理士側が勝利しました。

(左図)お題画像 商標登録6260177号 権利者:株式会社パイオニア (右図)正解画像 商標登録6132172号 権利者:株式会社ユニバーサルエンターテインメント

二つ目の項目「類否判断対決」では、実際に出願された文字商標を利用し、その文字商標に係る出願に対して拒絶理由が通知されるか、それとも一発で登録査定となるかのを当てることでした。出題は10問があり、制限時間は10分です。AI側はディープラーニングを活用するに対し、弁理士側は経験と知識により似た商標の類否を判断しました。結果、AI側は10問中6問に正解し、弁理士側は10問中7問に正解したため、弁理士側の勝利となりました。

三つ目の項目「識別力対決」では、実際に出願された商標とその商品・サービスを提示し、特徴があるかどうか(識別力)を判断することでした。出題は10問があり、制限時間は10分です。AI側はディープラーニングを活用した識別力判断システムにより判断し、弁理士側は経験とインターネット検索などにより識別力を判断しました。結果、AI側は10問中7問が正解し、弁理士側は10問中6問が正解しましたので、弁理士側が負けました。

商標分野が求める能力と商標分野におけるAIの位置付け:

今回の「AI vs 弁理士」イベントは、制限時間や問題数の制約があることで、弁理士の実力が正確に反映できたとは言えませんし、また一方、イベントに使用されたAIも開発されたばかりであったため、これでAIの処理能力が完璧であったとは言えないでしょう。しかし、このイベントを通じて参考になったことが二つがあります。

①AIのデータ処理能力

商標登録では、似た商標が既に出願・登録されている場合には商標出願を行っても拒絶されてしまいます。そうすると、出願商標が登録できるか否かを判断するには、今まで出願・登録された商標を全て確認しなければなりませんでした。従って、大量の商標を処理するかつ正確に出願商標と似た商標を見出すのが商標分野に求める能力です。大量の商標を処理する能力に対しては、人手で大量の商標を整理し判断することは無理ではないですが、多く時間がかかり、見逃し等のミスが出ることもあります。一方、AIはディープラーニングを活用し、短時間内に最古の商標から最新の商標まで、全ての商標を確認でき、更に客観的な基準で類似する商標を選別できます。その点において大量の商標の処理と類似する商標の見出し等の作業は、AIに任せた方がよいでしょう。

② 弁理士の柔軟性

AIは大量の商標を処理することや似た商標の見出すことなどのデータ分析能力は優秀であり、簡易審査ができるものの、判断が難しい場合は、人間である弁理士の知識と経験で判断する方が確実で有効です。先に言及したイベント「画像商標対決」を例をすると、AIは類似の画像を多く選別できましたが、最も類似する画像を選び出すことができなかったことで弁理士側に負けました。要するに、AIが最適な選択肢を提示し、弁理士はAIが示した最適な選択肢から素早く適切な回答を見つけることが理想的なワークスタイルになるでしょう。

また、商標を獲得したいのはクライアントであり、弁理士はクライアントのサポート役に過ぎません。そうすると、クライアントの考えを理解する力が不可欠です。クライアントが取りたい商標や商標の使い道等を理解し、それを基づて「指定商品・指定役務」を定め、特許庁に商標願書を提出する必要があります。この時点でクライアントのことを深く理解し、かつ商標制度を正しく理解してもらうことは、クライアントと弁理士との信頼関係を構築する上で極めて重要です。さらに、出願商標が登録できるか否かの判断は、人間である特許庁審査官です。スムーズに出願商標が登録に至るまで、特許庁審査官とのやり取りは専門家である弁理士が行った方が良いでしょう。こうした受任時における円滑なコミュニケーション能力と特許庁審査官に応対する交渉力は商標分野が求める能力であり、AIには難しい仕事になるでしょう。

AIは多くのデータを知識として瞬時に集積する力があり、AI技術を使ってデータを分析することは人間より遥かに優れています。そして、人間である弁理士は専門知識を基づき、柔軟にシチュエーションに応じて対応する力と他人と信頼関係を築く力があります。従って、AIと弁理士両方の長所を取り入れて共存するのが商標分野の未来像と思います。

すまるかの仕組み

「すまるか」は、AIの強みである大量にある先行商標から似た商標を抽出する処理と、人(弁理士)の強みである「似た商標」を確実に判定する処理を組み合わせたシステムです。AIの強みと弁理士の強みを融合させた面白いシステムになっています。

是非すまるかを使って商標を取得してみてください。

参考資料:

宮崎超史,中村祥二「商標分野におけるAIの今後について」パテント73巻2号16頁~22頁(2020年)
(https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3489)
総務省「ICTの進化によるこれからのしごと」情報通信白書192頁~206頁(平成30年版)
(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/pdf/n4500000.pdf)

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情報提供源

本ページの情報はAIとRPAを駆使したクラウドベースの
商標調査・出願・登録システム「すまるか」により生成されました。
商標が取れそうかどうかを確認する先行商標調査は無料で、
原則1週間以内に調査報告書をお送りします。アパレル、飲食、
サプリ、物販、EC、美容、情報発信など、
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商標取得をサポートします。