オリンピックと商標

【五輪】なぜ「Tokyo 2020」は「Tokyo 2021」に商標変更しないのでしょうか?

2021年7月23日、新型コロナウイルスの影響で延期となった東京オリンピックがようやく開催しました。

さて、オリンピックが延期になったら「TOKYO2020」も「TOKYO2021」になるよねーと思ったことはありませんか?SNS上では「TOKYO2020+1」「TOKYO202021」に変更する等様々な意見が飛び交う一方、国際オリンピック委員会(IOC)と日本政府は、「TOKYO2020」の名称を維持することを表明し、商標変更する事はありませんでした。

但し、商標変更する意向はありませんが「TOYKO2021」は主催者により商標出願されています。

なぜ変更しない?

今回は商標権において、商標変更しない理由をいくつかの仮説を立てて検証をしてみましょう!


仮説1:時間が足りないから

通常、商標出願から商標登録までにかかる時間は約12ヶ月です。この12ヶ月間、特許庁審査官が出願された商標に対して審査を行います。もし審査の結果、商標登録の要件が満たされてないと判断された場合、意見書・手続補正書の提出が必要となるため、さらにそれ以上の時間がかかる可能性もあります。

そうすると、延期が決まった時点で「TOKYO2020」を「TOKYO2021」に変更しても、 商標が登録となるときにはもう2022年になっている可能性が高いのです。

しかし、もし通常の約12ヶ月より早く商標登録したい場合、早期審査もしくはファストトラックを活用して出願すれば、審査時間を短縮することができます。

特許庁の商標早期審査・早期審理の概要より
(https://www.jpo.go.jp/system/trademark/shinsa/soki/shkouhou.html)

項目名商標登録までにかかる時間申請要件
早期審査約2ヶ月対象① 出願人が出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していること(又は使用の準備を相当程度進めている)+緊急性があること
対象② 出願人が出願商標を使用していること
対象③ 出願人が出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していること(又は使用の準備を相当程度進めている)+出願は「類似商品・役務審査基準」、「ニース分類」に掲載の商品・役務のみを指定すること
ファストトラック約6ヶ月対象① 出願は「類似商品・役務審査基準」、「ニース分類」に掲載の商品・役務のみを指定すること
対象② 審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていないこと

仮に「TOKYO2021」について、指定役務第41類(教育、娯楽、スポーツ、文化活動)を指定して出願した場合、上記の分野において商標を使用する実情があれば早期審査を請求することができます。この場合、出願した商標はわずか約2ヶ月の期間で登録することが可能です。

以上の観点から、時間が足りないから商標変更を行わなかったという可能性は低いと考えられます。


仮説2:手間がかかるから

商標登録出願をする場合は、特許庁に「商標登録願」(早期審査の場合は「早期審査に関する事情説明書」)を提出し、審査を受けなければなりません。この場合、出願人から提供すべき資料として、下記のものが必要になります。

初回の商標登録に必要な書類2回以降の商標登録に必要な書類早期審査に必要な資料
①  商標名/図形
②  出願人の名前/法人名
③  出願人/法人の住所
申請したい商品、役務(サービス)
①  商標名/図形
②  出願人の識別番号
申請したい商品、役務(サービス)
①  出願番号
②  出願人の名前/法人名
③  商標の使用時期
④  商標の使用場所
⑤ 商標の使用の事実を示す書類(パンフレットの写しなど)

「TOKYO2021」について早期審査を利用する場合、早期審査に必要な5つの資料を特許庁に提出するだけで出願することができます。この資料は、そこまで集めるのに時間がかかる資料とはいえないため、手間がかかるから商標変更を行わなかったという可能性は低いと考えられます。


仮説3:コストが高いから

商標出願に必要な特許庁法定費用は3,400円+(区分数×8,600円)となります。

特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)より

ご覧の通り、「TOKYO2020」は様々な図形で出願されており、その中に第1類から第45類まで全区分を指定された商標も少なくないです。全区分を指定して出願するに特許庁の法定費用は1件につき390,400円となります。また、正式に登録するには「印紙代+手数料」の支払いが必要となり、登録料の納付は「10年分一括納付」(28,200円×区分数)と「5年ずつ2回分割納付」(16,400円×区分数)の2種類の支払方が可能です。上記費用に加えて、特許事務所に支払う手数料があり、日本弁理士会の「弁理士の費用(報酬)アンケート」により、1区分の場合、商標登録の平均手数料は45,409円です。

そうすると、10年分一括納付で全区分指定の商標登録に必要になる費用は、1件につき約1,704,809円となります。

商標登録以外、登録関連の支出も考慮しなければなりません。2015年に掲載された日本経済新聞の記事によると、「組織委によると、国内外の商標調査や登録関連で約4700万円を支出。審査会場のレンタル費や公募のためのホームページ作成費など選考関連が約900万円、エンブレム完成後のポスターや名 刺の発注費などが約100万円支払われたという。」と記載されています。

このように、新商標を載せるためにホームページの更新・修正、ポスターや名刺の発注費などにかがる料金を全て考慮すると、商標を変更するためには非常に高いコストがかかることが予想されます。

以上の観点から、コストが高いから商標変更を行わなかったという可能性が最も高いと考えられます。

主催者が商標は変更しないことを狙い、先回りして「TOKYO2021」の商標権を狙った者がいたらどうするの?

ここで、もし「TOKYO2021」が第三者から出願されたらどうなるか、について説明します。一般的に「TOKYO2021」のような商標を出願しますと、特許庁から拒絶理由通知が発行され、商標権を付与することはできないという通知が来る可能性が極めて高いです。実際、「TOKYO2021」は既に第三者によって出願され、特許庁はその出願を拒絶しました。拒絶理由は以下の通りです。


識別力がない(第3条第1項第6号)

「tokyo2021」(商標出願2020-032237)が第三者より出願された後、特許庁に出された拒絶理由通知書の節録です。


広く一般に使用され得る商標は、識別力がないものとして拒絶される可能性があります。商標に識別力があるかどうかは、取引者や需要者が、その商品又は役務(サービス)の一般的な名称(略称及び俗称等を含む)や慣用名称、特徴等を普通に表示する商標だと認識するかどうかにより判断されます。

地名である「TOKYO」と年分である「2021」で構成された商標は、普通に使用される文字、慣用される文字、又は商品・役務(サービス)の特徴等を普通に表示する文字という理由で、特定の者の商品又は役務(サービス)であることを認識できないために識別力がなく、またこのような商標は誰しもが使用する必要があり、一個人に独占を認めるのは妥当でないと判断されます。


国、地方公共団体等の著名な標章(第4条第1項第6号)

「tokyo2021」(商標出願2020-032237)が第三者より出願された後、特許庁に出された拒絶理由通知書の節録です。


国や地方公共団体等の著名な標章と類似して紛らわしい商標は、国等の権威、信用の尊重や国等との出所の混同を防いで需要者の利益を保護するという公益保護の観点から拒絶される可能性があります。

オリンピックの商標は、主催国の開催都市名と開催年の組み合わせで表示する習慣があり、さらに日本で2021年にオリンピックを行う実情があるため、「TOKYO2021」が商標出願されると、商標の出所は国や地方公共団体である日本政府やオリンピック委員会であると間違える恐れがあります。

先願に係る他人の登録商標第4条第1項第11号)

「tokyo2021」(商標出願2020-032237)が第三者より出願された後、特許庁に出された拒絶理由通知書の節録です。


他人の登録商標と類似しているかどうかは、基本的に商標の外観(見た目)、称呼(呼び方)、観念(意味合い)の3つの要素から総合的に判断され、仮に出願商標が使用される商品・役務(サービス)に対し、先行する他人の類似商標が存在すると、拒絶される可能性があります。

そうすると、「TOKYO2021」が第三者より出願された場合、すでに登録されている商標「TOKYO2020」と比較すると、「TOKYO」の部分は外観(見た目)、称呼(呼び方)、観念(意味合い)においていずれも同一であり、「2020」と「2021」の部分は、外観(見た目)と称呼(呼び方)において「0」と「1」の差異に過ぎず、観念(意味合い)において「2020」と「2021」も西暦の表示に過ぎないため、両商標は類似していると判断される可能性が極めて高いです。

従って、先回りして「TOKYO2021」の商標権を狙った者がいても、第三者が「TOKYO2021」の商標権を取得できる可能性は非常に低いと考えられますので、第三者による商標登録の心配はありません。

コロナ禍で色々と制約が多い中の開催となりましたが、5年間頑張ってきた選手を全力で応援して参りましょう!!

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情報提供源

本ページの情報はAIとRPAを駆使したクラウドベースの
商標調査・出願・登録システム「すまるか」により生成されました。
商標が取れそうかどうかを確認する先行商標調査は無料で、
原則1週間以内に調査報告書をお送りします。アパレル、飲食、
サプリ、物販、EC、美容、情報発信など、
様々な商品やサービスを提供する中小企業、ベンチャー、
スタートアップ、個人事業主、等の皆様の
商標取得をサポートします。